2012年8月19日日曜日

読書・「ゆうとりあ」

学校は夏休みですが、なんだか通学中よりあわただしい毎日。そんな中で、この夏、本を50冊読む目標をたてました!

というわけで、ブックオフで棚を物色していて見つけた一冊が、これ。「へえ、熊谷達也が、こんな本を書いてるの?」と意外な思いで、手に取りました。ぱらぱらと見てみると、題名の「ゆうとりあ」は、ゆとりとユートピアをあわせた造語で、どうやら、定年退職した団塊の世代の主人公が、過疎の村に移住して第二の人生を送る話らしい。

う~ん、ちょっと迷いつつ、購入。

商社で定年まで働いた3人が、三者三様の第二の人生を送るのですが、その中で主人公となる佐竹は、過疎が進む東北の村が活性化策として打ち出した都会からの移住者のための理想郷「ゆうとりあ」に移り住み、自家栽培の蕎麦で生粉打ち職人を目指します。

他に、熟年離婚後、通販会社を設立して起業したり、オヤジたちのロックバンドO.G.B.(オヤジでゴメンねバンド)を結成して、ついにはデビューを果たす元同僚が登場します。

そう聞けば、「えーっ、あまりにもステレオタイプな・・・」とおっしゃる方がいらっしゃるかもしれません。そうですよね。「団塊が60歳を迎える2006年には巨大な消費が生まれる!」と期待された時期がありましたが、この小説に出てくる人たちの設定には、そんな時代の香りが確かにあります。

だから、団塊世代の一斉退職市場を狙ったマーケティングが期待ハズレに終わった今となっては、ちょっと夢物語のような感じというか、笑ってしまうようなところがないでもありません。でも、それが逆に現実を考えるきっかけになったりもしますし、ユーモアあふれる語り口と人物描写のうまさで、面白く読めました。

それに、「やっぱり、熊谷達也はすごいな。」と思ったのは、「ゆうとりあ」に移住した主人公の変化を、日々の日常生活を通して第二の青春ドラマのように書きながらも、人間を自然の一部としてとらえる視点や、自然と対峙するとはどういうことなのかというテーマがきちんと書かれていることです。
「少子高齢化、人口減少が進み、人間が都市部に集中するようになれば、相対的に過疎地はより廃れることになる。でも、それは見方を変えれば、これまで人間が侵食してきたエリアを動物たちに返すことになるともいえるし、それはそれでいいのではないか」という将来像には、なるほど!ここに持っていくかぁ・・・!とすごく納得しました。

熊谷達也の作品を最初に読んだのは、直木賞、山本周五郎賞を受賞した「邂逅の森」でした。こちらは、「ゆうとりあ」とは違い、重い小説。狩猟で生計を立てる東北の「マタギ」の物語で、大自然や獣に敬意を払いながら、獣を狩って生活するマタギの奥深い人生を描いています。自然に対する畏敬、人が生きること。どこか神聖なものを感じさせる壮大な長編で、あらゆる意味で凄い作品でした。圧倒されました。

その基本テーマは、「ゆうとりあ」の中にもしっかり生きていましたし、そこでは、ちゃんと考えさせてくれる一冊でした。寝っころがって読めて、熊谷達也デビューするにはほどよいかもしれません。そこで何かを感じた方は、「邂逅の森」を、ぜひ。

2 件のコメント:

  1. 熊谷達也の本は読んだことがないけれど、最近「生を語るために死を見つめる」というエッセーを読んだのを思い出しました。
    「東京という都会に暮らし、狩猟文化とはまったく縁のない育ち方をしてきた東京の学生たちが、たとえば、兎といういう可愛らしい生き物が鷹に殺される場面を目のあたりにしたときに、どんな反応を見せるか、いかなる感想を口にするか、それを私は見てみたかった。」と鷹狩りを見学させます。
    学生たちは、だれも目を背けることなくじっと一つの命が消えていく様子を見ているのですが・・・その描写は、強烈でした。読みたくないなと思いながら、でも読まなくてはと思わせるものがありました。

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  2. そんなエッセイがあるのですね。ちょっとヘビーそうですが、彼のテーマとしては、わかる気がします。小説の方も、結構、いいですよ。

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